古いレンガ造りを貴重とした、情緒溢れる街並み。道を牛や羊、鳥が歩き回る。街の見所付近を中心に観光客とそれを当てにする人が溢れるが、それらの少ない早朝などの雰囲気はタイムスリップ感をたっぷり味合わせてくれる。人々も向こうから声をかけてこない人は軒並みに優しい。これらの点はかなり気に入った。
ただ、動力車の普及を前提にしていない道路事情に大量の人間(と動物)と車たちが行きかうので、移動にストレスがかかる。空気は汚いしうるさく、住みたいという気にはまったくならなかった。
「どこで?!」
「カトマンズの動物園。5年前くらいにいたから、今もいると思うよ」
そんな都市部の動物園にいて、有名でないはずがない。さすがの私もだまされないぞと思ったが、詳細を聞くと、そのイエティとはドラクエに出てくるような巨大雪男ではなくて、人間にしてはワイルドすぎる、野生児のような生き物であったとのこと。
それで真実度が5%に上昇。ネパールならそれもありかも知れないと、私はカトマンズに帰ってから宿探しもせずに一目散に動物園に向かった。ここでいかねば一生心にひっかかったままになる。
動物園は周りの民家との近接間がいい感じで、近所の人に庭で象などを飼っている気分をサービスしている。外国人観光客が皆無のちょっとひなびた動物園を一周したが、イエティらしきコーナーは見当たらない。
入り口付近にいた係員に尋ねてみる。
「この動物園にイエティはいますか?」
「イエティ?エレファントではなくて?」
「いや、イエティ。5年前にはいたと聞いたのですが・・・」
彼は困ったような顔でしばし沈黙したが、引き下がらない私にこっちへこい の合図をして、歩き始めた。
その顔には「ばれてしまっているならしょうがない、内緒で見せてやるよ」と書いてあったため、私は興奮を抑え切れなかった。
そこで、彼は事務所の人と相談しはじめた。
「イエティって動物園にいるか?」(ネパール語ゆえ想像)
「いるわけねーだろ(一同笑)」(ネパール語ゆえ想像)
ということで「いないそうだ」とお引取りを願われてしまった。
ガイドは冗談を言っている感じではなかったのだが、私はだまされたのだろうか?
それとも5年前には本当にいたのだろうか?
結局、心のひっかかりは消えなかったのであった。
バクタプルに来たときにも検問者と名乗る人に見つかったのだが、他の街と請求額があまりにも違う(750Rp / 他の街は200Rp)ので、この人は偽者に違いない、と判断。「あなたが公的な人なのか信用できないから払いたくない」と言うも、しつこくついてくるので(マイナーな入り口だったので他にターゲットになりそうな観光客が周囲にいなかった)、その辺の店の人に「この街に入るのにお金かかるの?」と聴くと「かからない」との答え。「それみたことか」と追い払うもまだついてくる。「学割料金500Rpでいいから」などと言ってくるので、更に怪しい(他の街にそんなものはない)。しかし、あまりにしつこいので心休まらずもう払ってやれ、と財布を取り出す。そうしたら彼はチケットを取り出したのだが、そこには50Rpと書いてあるではないか。「なめんなよ!」とお金を引っ込め、路地裏に逃げた(迷路状だったので映画的チェイシングである)。
後日、宿の人に聴いてみたところ、本当に入場には 750Rpかかるのだそうな。では 50 Rpのチケットは? というと、中国人用のチケットではないかとのこと(中国との友好関係維持のため)。だからどの国から来たのか先に聴かれたのか・・・なんだか悪いことをしてしまったが、ちゃんとした身分証明書を作って、きちんと全員から公平に取れる仕組みを作ったほうがよさそうだ。街の入る場所によって請求されたりされなかったりするのはなんか変である。
街自体はカトマンズのような喧騒がなく、古都の雰囲気をそのままに残す大変すばらしい場所であった。
時間があれば宿泊してゆっくりしたいところ。
宿の展望台としての機能も快適なところが多く、時間が許せばまったりと山を眺めてすごすのもよさそうである(その助けとして日本から持ってきた文庫本を宿に寄贈してきた)。山の頂上の展望台へは街から一時間程度歩くので、宿によっては相当遠くなることを覚悟する必要がある(私は日の出2時間前に起きて歩いた)。頂上まで行くと南側も含めて360度展望が開けるが、ヒマラヤに関してはそれほど変わらないので、そこまでして頑張る価値があるかは微妙なところである(この日はこの後サクーの街まで歩いたりしたので、トレッキング中なんかよりよほど歩いたし疲れた)。
Mr. Alone はこの街で帰りの飛行機チケットを手に入れることができたのでインド行きをあきらめ、ありあまる時間を使って、7日間のトレッキングに出ることにした。7日間の山行を心の準備なく「明日から」で始める気になったのは、そこに山があるからか私がまだまだ若さをあきらめていないからか。
アジアでもネパールは最も近代化されていない国の一つだと思われる。トレッキング後、地上から50mは下るだろう渓谷的な砂と砂利の混じる河原で一生懸命砂をふるいにかけて、袋詰めしては上に運んでいく人々を見た。機械を導入すれば、あっという間に終わる作業を身体をフルに使って根を詰めて・・・可愛そうなのか、そうでないのか、宇宙から見てこのスタイルがどうなのか、分からない(ヒマラヤを見て過ごす日々は、宇宙の視点を獲得しやすくなる)。ただ、違う生活スタイルがあることだけ分かる。
バックパッカーの沈没地として有名な場所。
ボートでぼーっとできる湖と間近に迫る雄大な山並み、ヒマラヤトレッキングやインド陸路超えの拠点、各種揃ったおいしいご飯に安い物価。沈没地として確かに条件はよい。実際に沈没現場を見てみたかったが、成り行きに任せて溜まり場の宿にいかなかったので見れず。
この街では(というかこの旅通してほとんどだが)、孤独にすごした。夕暮れにボートを独りでこいでたそがれていると、独りの人など周りにおらず、現地の少年たちに「Hello!Mr. Alone!」とはやされた。Mr.Alone という響きが気に入り、後に違うグループからも「are you alone?」とはやされた時に「Yes, because I am Mr. Alone!」といったら受けた(何と答えても笑われるのだろうが)。
行けるなら行きたい、と昔から思っていたコースにちょうど7日間で行けることが分かったからだ。