倫理

1999
倫理とは「人が人としていかに生きる<べき>か?」を規定するものであり、 その本質は「自分はいかに生きたらいいのか?」という問題意識に帰着する ものであると思います。私の考えでは、倫理の基礎は人間の欲望です。 また、倫理とは人間の欲望の実現の仕方を「縛る」ことによって、人間関係の間に 起こる欲望と欲望の軋轢等を減らし、最大多数の欲望の充足を促すものである と思います。 ゲーム理論においても示されていることですが、「個々が自分の利益を追求する」 よりも、「他者の利益を重んじる」方向でいったほうが、全体…個々の利益平均 は大きくなるということがあります。 個々の欲望の織り成す世界をよりうまく流すためには、あるルールを設定し、縛り を加えることが、縛られる人の為であるということです。 倫理は、人間の性善を信頼するものではなく、自然状態において生じる様々な相互 不都合を解消するために生まれた積極的な「縛り」であります。 それは絶えず、人間の根源的に持つ特性や、社会的に生じている諸問題等を見つめ ることによって更新されてゆく「べき」ものであって、本来持っていた意味が失わ れて自己目的化を起こしてはならないものであると思います。 倫理の縛る力が単なる拘束力としてしか感じられなくなった時、ある特定の人が (自己の欲求を満たすために)他者を裁く力として利用するにとどまるようになった 場合には、早急にその意味等を捕らえなおすことが必要であるでしょう。 問題は、欲求のあり方が極めて多彩であり、他人の欲求のあり方を規定したいと いう欲求というものも存在するということなどから生まれてくるでしょう。 人間には、他者の(行動を定める)価値尺度が異なると不安になるという傾向が あり、それが他者の欲求のあり方(自由)を縛る力となるのだと思います。 価値観の違いをどう乗り越えるかということに関しては、文化人類学的、相対主義的 なものの見方をみにつけることによって、ある程度は解消されるものと思われます。 結論としては、「他者の欲求のあり方を尊重する」という「縛り」が倫理の原点 であるのが一番良いのではと現時点での私は思います。
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