5日目

~ Day5 本島、熱帯雨林の山へ ~

Dave と本島へ出発の朝。彼が6時にパブリコを手配してくれていた。
彼は旅に際し、準備や手配を怠らない人だったので、楽ちんさせてもらった。
せっかくの早起きなので、朝日が昇るのを観察して出発。

2人ともろくな夜ご飯を食べていなかったのでハラペコ。
フェリー乗り場の近くで私はサンドイッチを、彼はドーナツを買ったのだが、
彼は「生涯で一番おいしいドーナツだ」と食べ終わってから(つまみ食い
したかったのに・・・言うのが遅い!)。
理由は「温くて焼きたてそのものといった感じ」だからだという単純さ。
子供の頃、母親が作ってくれた揚げたてドーナツのおいしさをぼんやりと
思い出しながら、「ご馳走」というものについて考えてしまった。

私の買った温かいチーズとハムをホットケーキ的なパンにはさんだ
サンドイッチも、なかなかおいしかった。

1時間ほどでプエルトリコ本土に。
彼が空港から乗ってきてレンタカーが(贅沢にも3日駐車してあった)
あったのでそれに乗り込む。

街で現金下ろして宿を予約して綿棒を買いたいという彼の要望が終えるのに
なぜか2時間かかって、ようやく出発。

目指すは、熱帯雨林の山、El Yanque の頂上。

三角頭の頂上
山を登る途中、屋台的な店でご飯。 甘くないバナナのようなフルーツで土手を固めた中に肉の入った名物 料理を食べた。 店の人は英語が堪能が「この辺は夜、Firebirds と shooting star が すごいんだ」と教えてくれた。 「Firebird?」と当然突っ込むと「あれ、Lightning bird かな?」と 訂正した。 それがなんのことかもよく分からなかったけれど、夜にここに来ること なんてありえないので聞き流してしまった。 この山の頂上は 1100m くらい。 車で途中まで登れるので、歩くのは往復4時間くらい。 観光名所なので頂上付近までは道がよかったが、最後の方はそこそこ 険しかった。 種々数百匹のトカゲ類を見つけたけれど、道中人間には数人にしか会わなかった。

道はこんな感じ
椰子、シダ、竹などが混生。 湿度が高く、表面という表面を覆い尽くしているコケに水が光っている。 明らかに日本の山と違う植生、動物、におい、音の中を歩くのは楽しかった。 行きはマクロレンズ専門と決めて、生き物の写真をたくさん撮った。 Dave には「自分は今日写真バカだから自分のペースで先に行って」と言って。 彼のほうが体力はなかったので、ちょうど彼が休憩をしていると追いついて 同期が取れるといった調子だった。 私が昨日、ご飯をほとんど食べなかったのと、今朝、日の出の写真を撮る ために早起きしたのを踏まえて彼は 「Toshi はカメラがあればご飯も睡眠も休憩もいらないようだな」と笑った。 実際に自分はそんな感じだった。


動植物たち

頂上は岩が突き出したような絶壁。 下には熱帯雨林、北と東には海が広がる絶景。 熱帯の雲は低く、白い塊がすごい速さで近づいて、 視界をすべて消し去って、また去ってゆく。 頂上があまりにも気持ちいいので、のんびりと 何度もそのサイクルを楽しんだ。
誰もがここで吠えたくなるだろう
名残を惜しみながら下山を始める。 今日泊まる宿は山の反対側からハイキングをしないと辿り着けないような場所で、 日没に余裕を持って辿り着かないといけないというところだったので、急ぐ。 ~ 熱帯雨林の宿 ~ 車で山の反対にまわり、フルーツ畑や牧場をいくつも通り抜けて、目的地へ。 辿り着いた場所はがらくた置き場のようで、我々はほんとにここか?という 疑問を口にせずにはいられなかった。 臆せずに奥に進むとホモサピエンスの巣と思わしき場所が現れたので、人を 呼ぶと、破れたシャツに身を包んだオーナーの Robin が出てきた。 「日が暮れないうちにまずはゲストハウスに案内を」とライトを渡される。 盛大な地すべりの跡やハリケーンで廃墟と化した元ゲストハウスを通り抜け、 我々の不安ボルテージも汗腺の活動も高まってきたところで到着。 Robin の手作りの小屋は雨風は十分しのげるぞといったレベルのものだけれど、 昼に水を温めておくとホットシャワーも野外で浴びれる。 蚊をしのぐ機構がないため夜が怖いと思ったが、Robin は 「この辺はカエルが多くて蚊を全部食べてくれるから心配要らないよ」と にわかには信じがたい言葉をくれた。 カエルの合唱が始まりつつあった。 でもそれは我々が知っているそれとは違って音階を持っていた。 昼に単発で聴いていた時には鳥の鳴き声と信じて疑わなかった美声。 カエルの合唱 63kb.wav 鳴き声が「コーキー」と聴こえるそのカエルの名は「Coqui frog」。 「プエルトリコの特有種だよ。姿を見たければここ」と Robin は言いながら 野外トイレのタンクのふたを開ける。 そこにはアマガエル程度の大きさの可愛いカエルが何匹もへばりついていた。 我々はこのトイレを使うのはやばいのではないか?と同時に思ったのだった。

トイレの蓋を外してカエルを覗く Dave(拡大図つき)
一旦下山して夕食を食べに行く。 といっても近所に一箇所バーのような場所があるのみである。 3つしかないメニューから選んだモフォンゴを食べたが、とてもおいしかった。 客は我々のほかに一人だけで、店の人はビリヤードに興じていた。

なかなかしゃれたお店 El Bamboo
我々のお気に入りのビール Coors light を晩酌用にに買って Robin の棲家に 戻り、彼と話をした。 彼はマサチューセッツからプエルトリコに住居を移して20年になるという。 この US 準州は固定資産税がないため、家を建ててフルーツ園を経営していれば、 お金が必要になることはほとんどなく、収入としてはとても少ないが昔よりよほど 幸せな生活だ、と言っていた。 かつては好きだったお酒も肉も欲しいと思わなくなったのだそうな。 コテージは2人で $25 と他の場所と比べて激安で、生計のためというより楽しみ で経営しているようだ。 一年中エアコンもいらないこの土地で、のんびりとフレッシュな食や自然を楽しみ つつ、夜には各国から来る旅行者と話をする。 そんな生活は確かに幸せだろうなあと思った。 彼は、自家農園で取れた色々なフルーツをご馳走してくれた。 どれも珍しいものばかりで、おいしかった。 中でも彼が「パンプキンチーズケーキ」と呼ぶフルーツはまさにパンプキン チーズパイの味がして面白おいしかった。 ひとしきり話をすると、太陽光で温まったシャワーを浴びさせてもらう。 先ほどの所感を忘れないでいたので二人ともトイレも済まして、Coqui frog の 大合唱の中を、満月の明るさを実感しながら登山。 ~ 熱帯雨林の夜 ~ 道を何度か誤りつつコテージに到着。 Dave はテラスに吊るされたハンモックを見つけると横になり 「今も人類の数十%はハンモックに寝ているという」 神妙な口調でにそう言った。 「ああ、快適だ。今日は世界のことを想いながらここで寝るよ」と満足そうである。 私は同じくテラスに Robin が用意してくれたベッドが気に入って、結局 室内にあるベッドには誰も寝ないことになった。 2人はすぐにそこでこうもりや蛍の群れ見つけた。 昼に聞いた「Lightning bird」の意味がようやくわかった。 Fire fly は日本のと同じ色の光跡を残し、とても綺麗だった。 そこで2人は Coors Light をやりながらお互いの過去について、未来について から仏教の考え方に至るまで色々と話し合った。 そうこうしているうちに、なんだか月の様子がおかしいことが分かった。 月蝕だ。今日だったのだ。

月蝕中
Dave は(驚いたことに)月蝕がなぜ起こるかを知らなかったので、一生懸命 説明した。 月が欠け、周りが暗くなるにつれ、隠れた星が輝き始め、蛍の光も色濃く なってゆく。 幻想的なシーンだった。 雲の動きは速く、時より月を隠し、一瞬のスコールを置いて去ってゆく。 それが終わると月はまた違う顔を我々に見せる。 Dave は時より「我々は今、熱帯雨林の山の中で寝ている」と自分に言い 聞かせるような口調でつぶやいた。 その言葉は何の付加情報を与えるものでもなく、ただ自分が今体験している ものが現実であるということを確認するためのものだったのだと思う。 思わずそんな言葉が出てしまうくらい、非日常的なシチュエーションだった。 いつしか 2人は眠りに落ちる。 Dave は「カエルがうるさすぎる」と早期に初心貫徹を捨てて部屋のベッド に入りこんでしまった。 私は、蚊や朝食にしようとしていたバナナを奪いに来る小動物やスコールに たびたび眠りを妨げられたが、それも貴重な体験だった。

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